飯ずし

正月も終わった。
そろそろ冷蔵庫の飯ずしを食べ切らなくてはいけない。
毎年、年末になると各所から飯ずしをいただく。
今年は「サケの飯ずし」「サバの飯ずし」「カジカの飯ずし」を味わった。

飯ずしは大切な郷土料理であり、冬の「ごちそう」でもある。
サケ・ホッケ・ニシン・ハタハタ・カジカ・カレイなどでつくる。

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◆妻の実家からもらった鮭の飯ずし。


飯ずしの調理には時間と手間がかかり、細心の注意(痛む恐れがある)と技術と経験と勘を必要とする。意外な気もするが、鮭で飯ずしをつくるようになったのは比較的最近のこと(だったはず。以前の取材メモが見つからないのでウロ覚えですが)。扱いやすく、手に入れやすい食材であるためにレシピが広がったらしい。

長くなるが、以前書いた「飯ずし」の記事を転載する。
初出誌は雑誌「ゆきのまち通信」(第109号、2007年3月発行から)。

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鮭の飯ずし  高山 潤
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 漬け物を食べていると祖母を思い出す。たぶん、実家の勝手口にあった大きなプラスチックの樽には、祖母が仕込んだ漬け物が入っていたのだろう。子どもの私には、漬け物は異臭を放つ物体でしかなく、大きな樽にもあまり近づきたくなかった。食卓テーブルに漬け物が入った小鉢が置かれると、それとなく祖母の方へ押しやっていた。そんな漬け物をおいしそうに口へ運ぶ祖母の姿を、私は不思議に思いながら見ていた。
 なかでも飯ずしなどは、ご飯を口いっぱいに頬ばっているときに、勢いよくクシャミをしたあとのような見た目で、私には信じがたい食べ物だった。意を決して切り身を箸でつまみ、慎重に米つぶを振り落とし口に運ぼうとしても、独特の発酵臭にあてられて食べることができなかった。
 お酒の味を覚えて、いっぱしの講釈を垂れるようになった二十代後半になって、ようやく漬け物がうまいと思えるようになった。もし、いま祖母の漬け物を食べることができたら、きっとうまいうまいと連呼して、喜ばすことができるだろうなと思う。なにしろいまでは、寒気が訪れ年の暮れが近づいてくると、そろそろ飯ずしの季節かと心待ちするほどになっているのだから。

 函館市の小野光代さん(59歳)は、この冬も鮭の飯ずしを漬けた。毎年、きょうだいや親類、娘夫婦やご近所など、十五軒ほどに飯ずしを配っている。うまいうまいと喜ばれるのが嬉しくて、年々つくる量が増えてきた。今回は鮭を五本、しかもぜいたくに紅鮭でつくることにした。いつもは、お正月が食べごろになるように十一月下旬までに仕度をして漬けるのだが、昨年はその時期を過ぎても本格的に冷え込むことがなかったので、なかなか漬けることができなかった。そのせいで、ようやく良いあんばいになったのは、正月を十日も過ぎてしまっていた。
 光代さんの育った家では、いつも母親がイワシやホッケやサバの飯ずしを漬けていた。子どものころから漬け物づくりを手伝ってはいたが、しっかりと教わったことはなかった。結婚をして実家を離れたことで、そのまま聞きそびれてしまった。
 「つくりたいとは思っていたけど、青魚(あおざかな)はあたるのがこわいから」
 そんな光代さんが飯ずしをつくってみたのは、今から二十年ほど前のこと。新聞で鮭の飯ずしのつくりかたを見つけ、鮭ならあつかいやすいと思い、ためしに一本だけ漬けてみた。
 「実家の母に食べてもらったら、『ずんぶおいしくできたもんだね。なんにも教えていないのに』と驚いてたもの。嬉しかったよ」
 今では、野菜を千切りするのに丸一日かかるほどの量を漬けるようになった。いちど一人娘に野菜の下ごしらえを手伝わせたら、「こんなにつくってどうするの」とけんかになった。
 「母親が急に亡くなって、着物が入った箪笥を形見にもらったの。その中に小さな帳面が入っていて、母の字で漬け物をつくった日付、材料や分量が書きつけてあった。あまり字などを書くひとではなかったんだけど、残しておこうと思ったんだべさね」
 母親のメモは亡くなる半年前まで続いていた。日付をたどると、五年分の記録が残っていた。いまはその続きのページを、光代さんが書き継いでいる。
 私も字を書くのは億劫だけど、そのうち娘が見るべと思ってさ、とつぶやきながら、光代さんは大事そうに帳面をしまい込んだ。

◎作り方(小野光代さんの場合)
(1)鮭のウロコを取り除き、三枚におろす。しっかりと塩をして、1週間ほど冷蔵庫で寝かす。
(2)鮭をきれいに水洗いし、さらに酢で洗う。そぎ切りにして水気をとる。
(3)大根・人参・生姜は千切りにしておく。
(4)ご飯をいつも通りに炊いて、少し冷ましたところで麹を混ぜ込み、さらに塩・砂糖・酢を振りかける。
(5)ご飯→鮭→野菜の順で、樽の中にすきまなく敷きつめて、何層も重ねていく。
(6)落とし蓋をして重石を乗せ、寒い場所に置いておく。水が染み出してくる。
(7)40日〜45日ほど漬けたら、樽を逆さにして重石を乗せて、1日〜2日ほど水を切る。
※数日で食べきる。酸味が増したところを炙って食べるのもうまい。冷凍保存も可能。

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◆上の記事に出てくる「手帳」。

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プロフィール

高山潤
函館市および道南圏(渡島・檜山)を拠点に活動するフリーランスのライター、編集者、版元、TVディレクター、奥尻島旅人。元C型肝炎患者(抗ウィルス治療でウィルス再燃、インターフェロン・リバビリン併用療法でウィルス消滅で寛解)、2型糖尿病患者(慢性高血糖症・DM・2009年6月より療養中)。酒豪。函館市(亀田地区)出身、第一次オイルショックの年に生まれる。父母はいわゆる団塊世代。取材活動のテーマは、民衆史(色川史学)を軸にした人・街・暮らしのルポルタージュ、地域の文化や歴史の再発見、身近な話題や出来事への驚きと感動。詳しくはWEBサイト「ものかき工房」にて。NCV「函館酒場寄港」案内人、NCV「函館図鑑」調査員(企画・構成・取材・出演・ナレーション)。


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