ごっこ汁

夫婦ともに実家は函館市内にある。
たまに実家から電話が入ると、
多くの場合は季節の「晩ご飯」をおすわけしてあげる、という連絡だ。
例えば、法要の季節には粒あんとこしあんのオハギがそろう。
お正月には、それぞれの家のくじら汁や飯寿しが食べられる。
で、この時季はカミさんの実家から、かならず「ごっこ汁」が届く。

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◆カミさんの母親は函館と東部海岸をつなぐ亀尾地区出身。
 下海岸(函館東部)の食文化圏で、ごっこ汁などは代表的な郷土料理。


地場スーパーの鮮魚コーナーには、1月ころから「ごっこ汁」セットが並ぶ。
ここ数年で目立って来た現象である。

「昔は見向きもされない魚でしたよ。こんなに一般化するなんて正直言って予想外。ごっこ漁をする漁師は恵山で数軒でしたが、現在では40軒ほどにまで増えています。水揚げ量も格段に増えて販路も拡大しました。」
これは一昨年、函館市恵山地区(旧恵山町)の漁業関係者に聞いたときのお話。
もしかすると、ごっこ漁師はもっと増えているかもしれない。

ごっこは道南での通称。一般的には「ほていうお(布袋魚)」と呼ばれる。
布袋様(七福神のひとり)のお腹のように丸まるとした魚体が特徴。
ウロコがなくて、ぷよぷよしている。
深い海にいる魚で、厳冬期になると産卵のために沿岸にやってくる。
卵をいっぱい抱えたこの時期が旬となる。

恵山では20年ほど前から、この珍妙な姿をした魚で町おこしをしてきた。
そのころ続く「恵山ごっこまつり」は、今年も開催されて盛況だったようだ。
ちなみに、函館市と合併する以前の旧恵山町のキャラクターは
「ゴッゴのほていドン」だった。

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◆ごっこ汁の魅力のひとつは食感である。
 身はとろぷる、たまごはぷちぷち。そいつをシンプルな味付けで食す。
 がっつり熱々にして、岩のりをのせて、はふはふと食べる幸せ。


最近では、居酒屋や料理屋などで
「ごっこ汁」をメニューに入れている店が多い。
先日行った市内の回転寿司店にもあったので、さっそく注文してみた。
が、味付けも汁の温度も上品で、物足りない感じがした。

<ごっこ汁のレシピ>
 昆布だし・しょう油ベースの鍋料理。
 小口に切ったごっこ(身も皮も肝も卵も食べる)と豆腐・ネギを入れ、
 ぐつぐつ煮立てればできあがり。

※下海岸とは、函館東部(旧戸井町・旧恵山町・旧椴法華村)の海岸線を意味する。ちなみに、松前(つまり函館を挟んで下海岸とは反対側の海岸)で育った僕の父親は、「あんなもの(ごっこのこと)は食べない」と言っていた。だから、ごっこ汁はカミさんと結婚して初めて食べた。

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コメント(2)

ごっこ汁、懐かしいですね。
卵の食感がたまらないんですよ。
松前の人は食べないんですね。
意外な感じです。
また道南の旬な話題を発信してください。

 「松前」の件は、ひとつのエピソードですので。ただ、太平洋側と日本海側の違いがあるとはいえ、同じ津軽海峡に面した漁村でも、食の文化には違いがあるということがわかるかと思います。
 函館では街の雪がとけはじめました。もう少し風がゆるめば、春の山菜が顔を出し始めます。

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プロフィール

高山潤
函館市および道南圏(渡島・檜山)を拠点に活動するフリーランスのライター、編集者、版元、TVディレクター、奥尻島旅人。元C型肝炎患者(抗ウィルス治療でウィルス再燃、インターフェロン・リバビリン併用療法でウィルス消滅で寛解)、2型糖尿病患者(慢性高血糖症・DM・2009年6月より療養中)。酒豪。函館市(亀田地区)出身、第一次オイルショックの年に生まれる。父母はいわゆる団塊世代。取材活動のテーマは、民衆史(色川史学)を軸にした人・街・暮らしのルポルタージュ、地域の文化や歴史の再発見、身近な話題や出来事への驚きと感動。詳しくはWEBサイト「ものかき工房」にて。NCV「函館酒場寄港」案内人、NCV「函館図鑑」調査員(企画・構成・取材・出演・ナレーション)。


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