糖尿病入院日記:7月18日(退院目前の心境とか)

7月18日(土)

ようやくながら、明日退院。
慢性高血糖症(2型-インシュリン非依存型糖尿病)の入院治療十三日目。
すっかり暮らし慣れた函館中央病院にて。

4時20分ころ起床。
いったんパソコンを開くも、外は曇り空だし、乗り気がしない。
さらっと斜め読みしていた『糖尿病とたたかう』(ベスト新書)を読む。

「長期間にわたって血糖コントロールした場合でも、時の経過とともに網膜症は発生し進行し、比較的軽い2型の糖尿病でも、発病後5年で35%、10年で55%、20年では73%に網膜症が現れている。しかも、いったん網膜症が出現すると、どの10%近くの人が3年以内に失明に近い状態になっている」(64p)
数字は冷酷だ。
血糖を正常値に近くなるようコントロールをしていても、常人よりも血管(糖尿病合併症の多くは血管の障害が原因)の経年劣化が早まるようだ。

この本は以前の記事で紹介した本(『糖尿病は専門医に...』)よりもイヤミはなく、また、一般人が疑問に思いそうなところを丁寧に、しかも何度も説明してくれる。また、新書版ということで(文庫本に比べて)容量が多いので、解説も詳細で多岐にわたる。ただし、面白味には欠ける。
ただ1点だけ納得いかない記述があった。
「太って、いいことは何もない。ズボンや服が合わないとか、異性にもてないとかだけではなくて、医学的には太ることの利点はない。」
下線部。どうなんだ。これ、科学じゃないだろ。ここだけ思い込みで書いてやがる。

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◆朝食。向かいのおじさんはまだ絶食。

夏山遭難のニュースを聞きながら食事。
ご飯、味噌汁、とろろ、ニラ玉、白菜、牛乳。
俺はそうでもないが、多くの入院患者は(急性を除けば)時間を持て余している。
いまは、時間を消費するアイテムを隠し持つことも可能であろうが(一般的な話です)、
それでも、いちばん簡便なのは、話し相手を見つけることだ。今も昔も。
まず病気の話があって、毎日の天気の話をして、だんだんと家族の話が出て、
それなりに人生経験がある人だと「半生」を語ることもある。
野球でも相撲でもゴルフでも良い。とにかく、ひとりでも話し相手を見つけること。
ニラ玉を食べながら、このニラは知内のかしらと思いつつ、そんなことを考えていた。

おじさんと食後の雑談。窓辺にパイプイスを並べてとりとめなく。
「あんた、退院したら食事が大変だな。どうすんの?」
「とりあえず、もうすぐ妻が帰ってくるので、夏休みの間は何とか。」
「なに、離れて暮らしてるのかい。そりゃ、大変だな。」
「結構当初からですから。俺の稼ぎが少ないので、自分の食い扶持は自分で稼いでもらってます。」
「まぁ、俺も45歳くらいまでは、ほとんど家に帰らなかったからな。」
おじさんの仕事話がかなり面白い。
取材モードの相づち技術で、お話を聞きついでいく。
大門の話。高校生のころから、いわゆる社長たちに連れ回された話とか。
出てくる名前が、いわゆる函館の財界人で、ほぼ全員が故人だったけど。
つい先ごろお亡くなりになった大物も入っていた。
横田基地のホットドッグの話。すげーうまそうだった。
ラーメンや蕎麦の話。奥さんが飲食店を開いていた時期があったそうだ。
「ふらみんご」という名前だったらしい。
大学など学校が多くある町で開業していたので、お店を利用していた学生が、
社会人になってから訪ねてくることもあったそうだ。
ここでは書かないが、とにかくバブルの時代に盛り上がった業界で長く活躍してきたとのこと。
技術と経験を買われて、日本全国・アジア各地を回ってきたらしい。
なんでも、毎日欠かさず記録している日報があるらしい。何十年も。
素晴らしいことだ! すごく読みたい。一冊の本にしたらどうですか?
「いやいや。でも、まぁ、いろんなことがあったわ。おもしろいぜ。」
でしょー。日々の記録ってのは、蓄積されると大きな力になるんだよね。
そういえば、今年の冬、江差追分の青坂さんを取材したとき、
やはり数十年にわたって几帳面な文字で記録してきた日記を見せてもらった。
しかも、ボケ防止だとか言って、その膨大な日記を清書していた。
「書いたのと同じくらい時間かかりそうだわ」。そりゃそうだ。
青坂さんは(船酔いする)漁師だったので、毎日の天候・風向き・波の高さ、
海がどんな色に見えたとか、この日はどこで何を漁したとか、細かに書いてある。
僕なんぞには、とうていできない。たった2週間のブログを書き続けるのでもギリギリだ。
でも、町に埋もれた記録の存在を知るたびに、自分の仕事を思い出せと奮い立つことができる。

10時半くらい。血圧測定127の85。ほとんど健康な人じゃないか。

11時前、最後の取り調べ。いろいろと決意を聞かれる。
なるほど。これも治療法なんだな。

俺も、入院しながら毎日このブログを書いていて、
糖尿病治療に「記録する」ことが使えるんじゃないかと感じていた。
 これは、俺が「ものかき」だからという特殊な事情は関係ない。
 だいたい、めっぽう精神を削られる「書く」行為は、なるべく逃げたいと思っているし。
たとえば、入院中の日記をつけるとか、入院前の食生活を語るとか。
(患者に語らせ、かつ自分の生活を振りかえってもらいには、インタビュー術の訓練が必要だ。いわゆるカウンセラー<有資格者の意味ではなく>的な人が必要になるかも知れない。)
いずれにしろ、寝かせておくだけの治療、投薬や注射を押しつけるだけの治療では、
(とくに2型)糖尿病の患者には手応えがない気がする。
ま、いまどき、そんな医療はないし、患者だって、よく見ていると思うが。
いちど、自分自身とがっつり向き合わなければならない。僕のような病気は。
ただ、反省や後悔をしても治るわけではないので、
「俺ってバカだったなぁ。あはははっは。」ってところから、リ・スタートする。
それが大事かなぁと思う。糖尿病のような、良くも悪くも慢性化する病気は、
長くお付き合いするしかないのだ。投げやりになれば、はい、それまでよ。
なにかしら楽しみとか目標とかを見つけていくしかない。
終わることがないRPG、ひとつのミッションコンプリートは、
新たなミッションの始まりである。いいじゃん。それで。
ゲームのレベル上げって、けっこうはまっちゃうし。
(いまだにファミコン版の「Wiz」「ドラクエⅢ」のレベル上げを楽しむ俺。)

昼食前に1階で入院費などを精算。
たいていは退院日にするものだが、日曜日は事務窓口が休みなので。
現金を残しておきたい気分なので、クレジットカードで決済した。ポイントも貯まるし。

11時半、昼食。お向かいも食事再開。

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◆「おたくはバナナが好きね」と言われた。飽きたので昨日から食べていないけど。

ご飯、ゴボウきんぴら、さんま蒲焼き、大根おろし、ほうれんそう、バナナ。
やっぱ、ちょっとしょっぱい。さんまとバナナを残す。飯も軽く残す。

13時10分、お散歩に出発。小雨模様。テーオー小笠原の書店に向かう。
丸井の交差点で、5月末に閉じてしまったダイエーの店舗を見上げる。

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◆むかしはホリタだったな。弟の友だちに堀田くんがいたな。たしか。

コンサドーレの試合があるようで、大きめの駐車場の入り口には、
試合観戦を目的とした駐車場利用の禁止を告げる看板が。警備員も配置。
テーオー5階の書店へ。
おっ、本棚の向こうに、ひょっこりあらわれた見覚えのある顔。
カミさんの書道の師匠、鈴木大有先生じゃないか。
「ようっ。元気かい?」
「入院してまして。」
「へ。そりゃ聞いてなかった。彼女、そんなに悪かったの?」
「あああ、すんません。この場で言うのも変な話ですが、入院しているのは僕でして。ま、明日には退院するんですが。」
「そうかそうか。どうしたの?」
「てへへ、糖尿でして。痩せろと言われてます。100kg以上ありますか。」
「そんなにあんのか。そりゃ痩せなくちゃだめだ。」
「とりあえず、90kgくらいをめざそうかと。」
「そうか。酒は飲ませられんな。こんどはお茶を用意しておくわ。」
「いやいや、もう、お気をつかわずに。遠慮なくお酒をください。」
俺は入院した方が、いろんな人に会えるらしい。

まず「健康」のコーナー。糖尿病の解説書は、アマゾンで買った2冊より良いものなし。
レシピ本が多い。そして、民間療法(主食ヌキで薬いらず、とか)の本。
今回、ついでに見つかった●●●●の本を購入。
「マンガ」のコーナーで、「新ナニワ金融道」(1〜4巻)を購入。
もともとの作者はガンで亡くなったはず(「ナニ金」は社会人の必読書だ)。
原作者を付けて、作画は青木雄二プロダクションになっていた。
絵のタッチは、ほとんど変わっていない。ちょっと表現は薄ペらになった感じがするが。
「新書」コーナーで6冊ほど。野菜の図鑑みたいな本も買った。

ずいぶんとめまいがする。足もとがふらつく。低血糖症だろうか。
でも、血糖を下げる薬は朝のアマリール0.5錠だけ。
耳鼻科のめまいと迷うところだ。とにかく、長く本の背表紙を眺めていられない。
なんとことだ。ますます、アマゾンでばかり買ってしまうじゃないか。

行きに20分かけた道を、帰りは12分ほどで戻る。4432歩。
今日は涼しいので、それにあまり歩いていないので、汗をかかず。
明日の体重計は、また期待はずれになりそうだ。
汗と言えば、このブログのどこかで書いたと思うが、入院後、とみに汗がくさい。
カミさんに電話でそのことを話すと、ダイエット本の中に
「食事制限を始めると体が臭くなることがあります。それは体の脂肪が燃えているためです。」と書いてあったという。なーる、それだな。二人でくくくくっと笑う。

15時半、予定より1時間早く病棟に戻る。
いつも調書を取る看護師さんに
「早かったですね。良い画(え)は撮れましたか?」と聞かれる。
今日はホリタだけでした。

16時、入浴。ゆっくりと入る。
毎日、足をしっかり洗って、皮膚科で処方されたクリームを塗っていたら、
長年、俺の足に駐屯してきた水虫が、撤退しかけている。
思いやり予算も移転費も拠出していないのに偉い奴らだ。

17時、土曜夕方の定番「アヴァンティ」を聴く。
ウィスキーのソーダ割りが飲みたくなった。
こんど、ラフロイグのソーダ割りを成田くんにお願いしてみよう。

17時半、最後の晩餐。赤ワインもパンもないけど。

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◆とても糖尿病食とは思えない面構え。

ご飯、味噌汁、豚肉すきやき風、白菜、もずく酢、キウイ。
もずく酢がめっぽう酸っぱしょっぱい。向かいのおじさんも同意見。
主菜も濃いめの味付けで、ご飯が先になくなったので少し残す。

20時まで、珍しくベッドに横になって読書。
(結局、消灯時以外はベッドはサブデスクになっていたので、ほとんど寝転がっていない。)

そうだ。昨日、書き忘れた話題。
ずいぶん多くの人がお見舞いに訪れていただいたが、
誰もが「部屋番号を教えてもらうのに、ずいぶんと根掘り葉掘りと聞かれたよ」と話す。
どうやら、●●●●の●●●●●●●さんが入院しているのではないかと。

入院の決断には勇気が必要だった。
2週間も働けないなんて。(でも、よく考えてみると、1カ月くらい引きこもってる時期もあるんだけどさ。)
実際に、周囲に迷惑をかけたし、ずいぶんとお世話にもなった。
でも、体をむしばんでいた糖尿病を、これ以上、見知らぬふりはできなかった。
もう、はっきりとヤヴァイ状態だった。
うん、負けを認めよう。でも、これから延長戦だ。たぶん、シーソーゲームだろうが。

いろんなことを体験し、いろんなことを考え、いろんなことを知った。
心から有意義な入院であったと思う。


あっ、まとめちゃったけど、病院には明日の昼まで居座る予定。

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プロフィール

高山潤
函館市および道南圏(渡島・檜山)を拠点に活動するフリーランスのライター、編集者、版元、TVディレクター、奥尻島旅人。元C型肝炎患者(抗ウィルス治療でウィルス再燃、インターフェロン・リバビリン併用療法でウィルス消滅で寛解)、2型糖尿病患者(慢性高血糖症・DM・2009年6月より療養中)。酒豪。函館市(亀田地区)出身、第一次オイルショックの年に生まれる。父母はいわゆる団塊世代。取材活動のテーマは、民衆史(色川史学)を軸にした人・街・暮らしのルポルタージュ、地域の文化や歴史の再発見、身近な話題や出来事への驚きと感動。詳しくはWEBサイト「ものかき工房」にて。NCV「函館酒場寄港」案内人、NCV「函館図鑑」調査員(企画・構成・取材・出演・ナレーション)。


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